うつ病とは
「うつ病」とは、気分障害の1つです。
気分が落ち込んで憂うつになる、やる気が出ないなどのこころの症状に加え、不眠、疲労感、倦怠感といった身体の症状が現れます。
気分障害は他に、過度に気持ちが高ぶる「躁病」、うつ状態と躁状態を繰り返す「双極性障害(躁うつ病)」があります。
うつ病の人がとる
行動・症状
うつ病は、その程度・経過によって、症状の傾向が異なります。症状によって引き起こされる行動についても、あわせてご紹介します。
軽度・初期症状
これまで当たり前だった日常生活において、さまざまな場面で「おっくうだな」「面倒くさいな」と感じたり、特に激しい運動をしたり頭を使ったわけでもないのに疲労感があるといった症状に見舞われます。
具体的には、興味・関心・意欲の低下、マイナス思考、自信喪失、罪悪感、疲労感・倦怠感、不眠症(入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒)などの症状が現れます。出社や登校も辛いものとなりますが、真面目な人ほど、出社・登校を続けます。
「疲れているだけだろう」と決めつけて放置し、症状が悪化することもあります。反対に、このタイミングで受診ができれば、治療の効果も得やすくなります。
中等度の症状
初期の症状が悪化し、少しずつ日常生活・社会生活に影響が出始めます。たとえば朝、身体が重く動けない、身体を起こせないといったようなケースです。これまで無遅刻無欠席だった人が遅刻をする・無断欠席をする、早朝は症状が重いが夕方になると多少楽になる、休日にも家に閉じこもって一日中寝ている、横になっているといった場合には要注意です。食事・入浴といった基本的な行動もひどく面倒くさくなり、ほとんど食べない・味がしない・美味しく感じない、何日も入浴しないといった症状・変化も見られます。
この時期になると、まわりの人が異変に気づいていることが少なくありません。一方で自分では「うつ病になるはずがない」という拒否反応が働いて、受診に至らないことがあります。人に指摘された時には、無理をせず受診をしてください。
重度の症状
日常生活の困難が、さらに深刻化します。
出社や登校はかなり難しく、食事を摂らない(食べたいと思わない)ために急激に痩せてしまう・栄養失調になるといったこともあります。また、自責の念が強くなり、死にたい気持ちになってしまうことがあります。
妄想が現れることもあります。お金はあるのに明日からの生活や人生に絶望してしまう、やってもいない犯罪をしたと思い込む、がんなどの重大な病気であると思い込むといったケースが見られます。
うつ病の原因
ストレス
うつ病の最大の原因と言われるのが、ストレスです。職場・学校・家庭などの人間関係、成績、金銭などにおける悩み、引っ越し・転職・転校などの環境の変化、大切な人・ペットを失ったことによる喪失感などがきっかけになることが多くなります。その他、長期にわたる不眠も、ストレスとなり、うつ病を引き起こすリスク因子となります。
ストレスの感じ方には個人差があります。まわりから見ると些細なことであっても、その人にとっては大きなストレスとなり、うつ病の発症につながってしまうことがあります。
几帳面・生真面目な
性格
ストレスの感じ方には個人差があると言いましたが、そこには性格が大きく関係しています。
几帳面な人、生真面目な人ほど、小さな失敗や悩みを大きく捉えたり、引きずってしまう傾向があります。また、まわりからの評価が下がることにも敏感な傾向が見られます。
その他、「何でも一人でこなしてしまうすごい人」が、実は「まわりに頼ることができずに一人で抱え込んでしまう人」であり、意外な人がうつ病になるということも少なくありません。社会的に評価されている人・明るい人・パワフルな人であっても、うつ病になる可能性はあるのです。
遺伝
うつ病には、遺伝性があることが分かっています。
親子、兄弟姉妹など、二親等以内にうつ病患者がいる場合、そうでない場合と比べてうつ病の発症リスクが2~3倍高くなります。
これは、精神を安定させるためのセロトニンの分泌を調整する遺伝子による傾向と考えられています。
病気によるストレス・ショック
人工透析やがん治療などの辛い治療が長期にわたったり、命にかかわる重大な病気と診断されたショックが、うつ病を引き起こすことがあります。
また糖尿病や甲状腺疾患といった身体の病気が原因でうつ状態を引き起こすこともあります。心も体も不調をきたすのがうつ病です。
うつ病の診断
普段の症状、診察時に現れている症状、日常生活の困難の程度などから、総合的に診断します。
うつ病と双極性障害の鑑別については、現在も容易ではなく、うつ病と診断されていたけれど実は双極性障害だった、またはその逆のパターンになることが決して少なくありません。
また、うつ病・双極性障害と統合失調症の鑑別も大切になります。近年では、光トモグラフィー検査という検査によって、うつ病・双極性障害と統合失調症の区別ができるという報告もなされています。まだ発展途上の段階でありますが、近い未来、より正確な診断方法の確立が期待されています。
うつ病の治し方
うつ病の治療では、休養の確保・薬物療法・精神療法などが行われます。
休養とは、とにかくしっかりと休むことです。仕事・学校・家事など、これまで「やらなくちゃいけないこと」であったものを最小限に抑えます。
薬物療法では、抗うつ薬をはじめ、症状に合わせて睡眠薬なども取り入れます。副作用なども考慮しながら、経過を観察しつつ、慎重に処方していきます。
精神療法とは、医師との対話・交流を通じて心の不調を改善し、問題解決のきっかけを掴む治療です。
うつ病の治療において重要なポイント
十分な休養をとる
うつ病の治療でもっとも重要となるのが、休養です。こころと身体に負担がかからない生活を送ります。
うつ病の程度にもよっては、休学や休職も検討します。また自宅で十分な休養がとれないといった時には、入院も検討します。
几帳面な人・生真面目な人ほど、休むことに抵抗を覚えます。「サボっていると思われたらどうしよう」と感じることもあるかもしれませんが、うつ病は“休養が必要な病気である”と正しく認識することが大切です。
治療の結果を焦らない
うつ病の治療には、時間がかかることを理解しておきましょう。お薬を飲んだ場合であっても、すぐに治るものではありません。また、症状が軽くなってきたタイミングで無理をして悪化するというおそれもあります。
家族や同僚、同級生に心配をかけている・迷惑をかけているといったふうには考えず、皆が気長に待っていてくれるというように考え、治療に向き合います。
自己判断の治療をしない
「もう治った」「薬はいらない」「職場や学校に戻れる」といった判断は、自分ではできません。先述の通り、早急な自己判断をしたためにかえって悪化する・長引くといったおそれがあります。
医師の指示を守りながら、治療を続けましょう。もし「もう〇〇ができそうだ」と感じた時にも、まずは医師に相談するようにしてください。
うつ病の人に
やってはいけないこと
「頑張れ」と励ます
最近はだんだんと知られるようになりましたが、うつ病の人に「頑張れ」や、「努力が足りない」「気持ちの問題だ」といった言葉をかけるのは厳禁です。うつ病の人は、“頑張ろうと思っても自分ではどうしようもない状態”です。頑張れと言われて頑張れないのはもちろんのことながら、そのことでさらに自分を責めてしまい、症状が悪化することがあります。
その人の感情を
否定する
うつ病の人は、自責の念に囚われていることが少なくありません。そしてこれもまた、うつ病の人にとっては“どうしようもないこと”なのです。
「プラス思考にならないと」「たいした悩みじゃないよ」といった言葉は、うつ病の人の自責の念をさらに深めてしまう可能性があります。
無理やり社会活動に
参加させる
うつ病の人は、“社会にいることが辛い状態”にあります。職場や学校はもちろんですが、たとえ遊び・買い物・旅行など一般的には楽しいことであっても、無理に誘いだしたりしないようにしてください。
そういった社会活動が不要というわけではありません。うつ病の回復状況、本人の意志、医師の判断などから、時期を見て少しずつ復帰することが大切になります。
自分の経験・考えを
押し付ける
「私もうつ病だったけれど〇〇をしたら治った」「〇〇をした方がいいんじゃない?」といったように、個人の経験や考えを押し付けることはおすすめしません。うつ病は、身体の病気と比べると「治り方」の個人差が大きな病気です。医師であっても、こうすれば必ず治るということは言えません。
聞かれた時に関節に答える場合は問題ありませんが、その場合も「人によって違うからね」とひと言を添えるようにしましょう。
専門知識がない人が
治療・薬のアドバイスをする
インターネットなどでさまざまな情報が得られる時代となりました。しかし、ネット、あるいは人から得た不確かな情報をもとに治療・薬のアドバイスをすることは控えましょう。
医師が絶対というわけではありませんが、やはり適切なアドバイスができる可能性が高いのは、専門知識を持つ医師ということになります。また先ほど申し上げた通り、人によってうつ病の治療法は異なります。
うつ病の予防方法
うつ病の原因から考えると、以下のような方法が、その予防に役に立つことが期待できます。
ライフスタイルの
見直し
ライフスタイルを見直すことで、ストレスを溜めない毎日を送りましょう。
特に日本人は、「ストレスから逃げてはいけない」と考えがちです。実生活を振り返ってみると、回避しても問題ないストレスは意外と多いものです。
完璧主義にならない
意識
仕事や勉強、家事などにおいて、常に完璧を追い求めていると、それができなかった時に強いストレスを感じます。人生において努力することは大切ですが、すべてにおいて完璧を目指すのは危険です。
家族や同僚、友人を頼り、互いに助け合いながら、足りないところを補いながら楽しく生活していきましょう。
バランスの取れた食事
うつ病の原因の1つに、脳の神経伝達物質「セロトニン」の欠乏があると言われています。
セロトニンは肉類、納豆、牛乳・チーズに多く含まれるトリプトファンから生成されます。日々の食事の中で、これらが不足しないように気をつけましょう。
またバランスの良い食事は、さまざまな病気の予防となります。長期にわたる辛い治療、がんなどの重大な病気の宣告がうつ病のきっかけになることを考えると、その面からも、バランスの良い食事によって身体の健康を守ることは、間接的にうつ病の予防になると言えます。
日光浴
外遊びが減ったり、紫外線対策をするのが当たり前になったり、美白が流行していることなどにより、私たちは日光を浴びる機会・時間が減っています。
日光浴は、セロトニンの分泌を促進してくれます。また、体内時計をリセットし睡眠の質を改善する、免疫力を高めるといった効果も期待できます。
特に、朝起きてすぐに日光浴をすることが、うつ病の予防に有効と言われています。